exchange meeting just for two


朝起きて部屋を出ると、ドアノブに袋が掛けられていた。
「なんだこれ……」
見回すと他の部屋のドアにも同じものがある。
なんだろうと思って中を見てみると、ラッピングされた小さな箱が二つとメッセージカード。
「チョコで元気を出して下さい、女性スタッフ一同……おお、バレンタインチョコ!」
皆に配られるものでもやはりもらうと嬉しい。
沢村は大喜びで倉持に報告しに行く。
「倉持先輩! チョコ! チョコが来てます!」
「あー、そんな時期か。また今年も高島先生に世話にならなきゃな」
倉持は浮かれた様子もなくそう言う。
「あの人からなんすか?」
「食堂のおばちゃんとマネージャーと高島先生からだ。そっちじゃなくてお返し。毎年費用だけこっちで集めて高島先生が買って配るとこまでやってくれんだよ」
来年のために覚えとけ、と倉持が教えてくれた。
「会ったらお礼言わなくちゃっすね!」
「義理チョコなのにテンションたけえな」
「甘いもの嬉しいじゃないっすか! あとメッセージで応援してくれてるのも嬉しい!」
倉持にそう返事して沢村は机の上にそっとチョコを置いて手を合わせる。
皆にという広い対象に贈られたものだが、込められた思いはきっと人数で割っても十分すぎるくらい大きい。
いつもありがとうございます、と心の中でお礼の予行演習をして頭を下げた。
「拝むほどか……」
倉持は呆れていたが、実際はくれた人たちに感謝しているはずだ。
わざわざ引き出しにしまう姿に沢村はそう確信した。
「よし。顔洗って朝練行くか」
「はい!」
朝から良い事があったから今日はいい一日になる。
そう思いながら沢村は部屋を出る。
顔を合わせる皆が嬉しそうにしているのを見て、その思いはますます強くなった。

朝練を終えての朝食。
沢村は降谷、春市と席に着き、朝のチョコレートについての話になる。
「まさかチョコもらえるなんてな! 嬉しいよな!」
「疲れた時に食べたらきっと凄く美味しいよ」
沢村が嬉しさを語ると降谷が頷きながら食べるタイミングについて提案する。
「好きな人からもらったらもっと嬉しいのかな?」
そんな二人にうんうん、と頷きながら春市が発した言葉に、沢村がはっとしたような顔をした。
「好きな、人……」
「うん。俺達野球ばっかりだから縁がないけどさ、もらえたらきっと格別なんじゃないかな」
好きな人からもらえたら。
その瞬間を思い浮かべてみる。
「嬉しいけど、俺ならもらったチョコ食えないな」
考えただけで幸せになれるけれど、もらったそれは永遠に大切にしておきたくなってしまうだろう。
「そうかも。食べたらなくなっちゃうからね」
「箱だけ大事にしたりとか」
沢村に同意した春市に降谷が返した思いつき。
それもいいかもしれない、と沢村は思う。
何よりも好きな人からもらいたくなってしまって、わがままを言う事を決意した。

「お疲れさまでした!」
放課後、グラウンドに練習終了の挨拶が響く。
その直後に沢村は寮の方へと全力で駆けだした。
向かうは想いを寄せる人のもと。
「クリス先輩ー!」
運よく部屋から出て夕食に向かおうとするクリスを捕まえられた。
「どうした?」
「あの、晩飯終わったら一緒にコンビニ行ってください!」
箱だけしか残らなくても、もらえた事実がほしい。
だから後輩の立場をいかしてわがままを言って、チョコを買ってもらおう。
そんな想いでクリスにそう願った。
「……よくわからないがいいぞ。そうだ、少し待ってろ」
不思議そうにしながらも承諾したクリスはいったん部屋へと戻って、何やら持って出てきた。
「ほら。疲れた時には甘いものだ。後で食うといい」
コンビニの袋に入ったそれは、普段見掛けるものよりも少しグレードの高い印象のあるチョコレート。
「え、え?」
予想外の事態に頭が真っ白になる。
「どうした?」
「クリス先輩からチョコほしくて、コンビニ行って買ってもらおうと思って、でももらえたからコンビニもうよくて」
どうしたらいいんでしょう、とクリスに聞いてしまった
「そうだな……じゃあコンビニには行こう。それでお前が俺にチョコを買ってくれたらいい。交換だ」
「はい! あ、クリス先輩も俺からチョコ、ほしかったですか?」
浮かんだ疑問を言葉にするとクリスは笑って頷いて、沢村の良い日になるという予感は見事的中となった。



BLのバレンタインって、受け攻めどっちがチョコあげるのかなと疑問になって交換にした。

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