with my saint

クリスマスで煌めく街をクリスは歩く。
受験生ゆえ賑わいに参加する暇はない。
待ちにいるのも冬期講習の帰りというだけの事。
これから寮に戻ってまた勉強の時間が待っている。
自分のすべき事なので苦痛ではないが受験という関門さえなければ、少しだけでも共に浮かれたい相手はいた。
「ん?」
寮の門に誰か佇んでいるのが見えた。
距離が近付くとその正体も分かる。自然と足が速まった。
「沢村?」
「クリス先輩お帰りなさい!」
沢村に笑顔で迎えられれば感じていたはずの疲れもどこかへ消える。
「何をしているんだ?」
自然と浮かんだ笑みを浮かべながら尋ねる。
「そろそろクリス先輩が帰ってくるかと思って待ってました。あ、外に出たのは本当にちょっと前ですよ!」
待っていた、の言葉に寒い中で外にいたのかと少し眉をひそめたクリスに気付いて沢村は弁解した。
周囲に片端からクリスが戻る大体の時間を聞いてそれに合わせて出てきたのだという。
「それならいいが何か用事だろう? 体が冷えるとよくない。俺の部屋に来い」
「え、あ、えっと、同室の方は……」
クリスの言葉に戸惑いを見せる沢村。その様子で二人で話したい事なのだとわかった。
「しっかり着込んでいるようだし外でもいいか。長時間はダメだが」
「大丈夫です! すぐ終わります!」
ぱっと顔を輝かせながら力説する沢村が可愛らしくてつい頭を撫でてしまう。
「へへ……あ、そうだ、メリークリスマス! これ、つまらないものですが!」
「ボール?」
沢村が両手で捧げ持つそれは、文字の書かれた野球のボール。
「はい! 一球入魂を一文字変えて一球入運です。俺の運、全部クリス先輩にあげます! 受験成功するように!」
「沢村……」
その手ごとボールを包み込む。
「あの、お返しとかしちゃダメですよ! 何も減らさないで受験してください!」
沢村の真剣な目から、その想いが一切余計なもののない本心だと伝わってくる。
自然と言葉がこぼれた。
「本当にお前は、聖人ニコラウスのようだな」
「ニコラウス……? あ、サンタクロースの人」
「そうだ。自分の運すら捧げるお前は俺にとって聖人だよ」
尊敬する先輩は大勢いるだろうに、全てを自分に対して贈るという。
その想いの価値も分かるがゆえに、目の前のボールはこの上なく神聖なものに思えた。
しかし、全てを貰ったままというわけにもいかない。
「このボールはありがたくもらっておく。合格したら感謝の分と貰った分の運を込めてお前に返す」
全部と言うと困らせるのはわかっていたので、返す分は限定した。
「返しちゃうんですか?」
「ああ。そして俺に何かまた大事な事があったら運を分けてくれ。今度は全部じゃなくていいぞ」
返すと言われて残念そうな顔をした沢村は、続くクリスの言葉に目を丸くする。
「そ、それで、俺の大事な時にクリス先輩がボール返すのと一緒に分けてくれるって事ですか?」
「そうだ。お互いを助けるキャッチボール」
沢村の目が潤む。
クリスはその手からボールを取り上げ、空いた片腕で抱き寄せた。
「今年は我慢するが、来年のクリスマスは二年分のプレゼントをするからな」
「キャッチボールだけでも十分なのに……でも、楽しみです」
沢村が小さくそう言って腕を回してくる。
心はとても温かかったが、寒空の下にずっといるわけにもいかないのでほどほどに離れた。

クリスマスじゃない。クリス祭りだ。
聖ニコラウスは英語圏の言い方じゃないけど、なんとなくニコラウスにしてしまいました。

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