御川本チラ見せ<br>
 メンタルのトレーニングだ、と休日にもかかわらず川上は御幸により遊園地に連れ出された。
トレーニングと銘打っても場所が遊園地なので基本的に楽しい。
変わり種はお化け屋敷くらいで絶叫マシン中心のチョイスなのが若干三半規管に厳しくはあるが、タイミングよく休憩を挟んでくれるので辛いとも思わない。
緊張しつつ出かけて来た川上の表情も明るいものになっていた。
「御幸、次は何に乗る?」
「んー、帰ってから体動かす時間もほしいし、次辺りで最後だよな。じゃあ、あれだ」
 そう言って御幸が指差したアトラクションに川上は不思議そうな顔をする。
「観覧車? 中で座禅でも組むのか?」
 メンタルトレーニングと観覧車が結びつかず首を傾げる川上。御幸はそれに曖昧な笑みで答えた。
「答えは乗ってからな」
「激しく揺らすとかナシな」
「やらないやらない。それガチで命の危険があるしここにも迷惑かかっちまうだろ」
 俺をどんな奴だと思ってるんだ、と苦笑しながら御幸が川上の言葉を否定する。
「人の嫌がる事を嬉々としてやりそうなんだよ。さっきのメリーゴーランドなんてトレーニングじゃなくて嫌がらせだ」
 川上も笑い交じりで返したが、言葉の後半にこもる恨みの深さは相当なものだ。
「わ、悪かったって。でも俺も乗ったし痛み分けって事で、な?」
 御幸が思わず謝罪を口にしながらごまかそうとする。
しかし、メリーゴーランドに乗った時の居心地の悪さは御幸も体感して痛いほど理解しているので、痛み分けを望むのはさほど無理な言い分ではない。
「俺だけに体験させてたら帰ってるよ」
「ま、二人で来てるしな。ほら、順番来た」
 恨みがましい言い方は誇張したところもあったのか、川上は御幸の言葉にあっさりと普段の調子に戻る。
それに御幸は少しほっとした様子を見せながら川上を促した。
「さて、俺的山場だ」
 こっそり呟いて御幸はゴンドラへ踏み入る。

「はー、ゆっくりしたのに乗ると落ち着くな」
 川上がしみじみとつぶやく。
肩が落ちている辺りに気持ちを緩めているのが見て取れる。
「だな。最後はゆっくり精神修養しようぜ」
「ずっと無言とかか?」
 冗談を言う余裕も見せる川上に御幸も笑顔を返し、今日の感想などを言い合う。
「なあノリ、今日楽しかった?」
 他愛のない話がひと段落したところで、御幸は真面目な顔でそう尋ねる。
「ん、そうだな……トレーニングって名目だけど基本遊びだったしな。楽しかった」
 御幸につられて川上も表情を引き締め、少し考え込んでから答えた。
「そっか」
「うん。気遣ってくれてるんなら平気だぞ」
「そうじゃねーんだけど、いや、まあ、それもあるか」
 歯切れの悪い御幸に川上は不思議そうな顔をするも、特に気にした様子もなく、普段よりもゆっくりしているように感じられる時間を共有する。
「ノリ?」
「ん?」
 ゴンドラが最高の位置を通り過ぎ、この時間の終わりを意識させ始めた頃、御幸が川上を呼んで他愛のない話の腰を折る。
「今日の、トレーニングって言ったけどあれ八割ぐらい嘘だから」
「え?」
 いきなり今日の外出の意味を根底から覆す言葉を聞いて川上が目を丸くする。
「いくらトレーニングでも男二人で観覧車に乗る趣味ない。少しはいい影響あるかもと思ったけど、本音はノリと出かける口実だ」
 驚いた顔のままこちらを見続ける川上の目をしっかりと見据えて御幸は言う。
「俺はノリが好きだ」
「え……」
「密室であと少し、告白してきた男と二人きり。観覧車も立派にメンタルトレーニングになるだろ?」
「御幸」
 見慣れた笑いを浮かべて茶化す御幸に川上が呼びかける。
その顔には告白をされた戸惑い以上に心配が色濃く浮かぶ。
「御幸は今日、それ言うつもりだったのか?」
「まあな。黙ってるのも結構大変だったんだぜ」
 御幸の口調はあくまで軽い。
表情にも深刻さを感じさせる様子はない。
対照的に川上が顔を曇らせていく。
「それなのに俺に気遣ってばっかりで……馬鹿だろ」
 トレーニングが建前でも、今日を楽しく進めるために事前にいろいろ考えただろう。
それだけでなく想いを告げてなお、受け取る側の事を考えて重くならないように、大切なはずのそれを茶化す。
きっと一世一代の事なのに。
「何言ってんだ。好きな奴とデート出来てるなら楽しくするためには気遣い必須だろ。全然苦痛でもめんどくさくもないし」
 事もなげに言う御幸に川上は何か言いたげで、しかし言葉が見つからないのかぐっと詰まる。
「それにさ、ノリはそうやって気付いてくれるじゃん。気遣ってるのも。だからいいんだよ」
「御幸……」
「答えは別にいい返事でなくても気にしないし、すぐじゃなくていい。ノリが待てって言うならいくらでも待つ。ノリに対してなら俺はいくらでも器のでかい男になるよ」
「御幸」
「俺に悪いと思ってくれるんなら、寮に帰るまで一也って呼んでくれねえ?」
 恐らく川上は気を遣われれば遣われるほど負い目を感じてしまう。
だから御幸は見返りを求める事にした。その意図も気付かれてしまうのは承知の上で。
「ん、わかった。一也」
「すんなり受け入れてくれるなんてノリ優しいなー。気をつけろよ。あんまり優しいと俺歯止め利かなくなっちゃうから」
「何する気だよ……」
 多少は御幸の思惑通りに運んだようで、軽口に反応できるくらいには川上も気分が変わったようだ。
「ん? いやらしい事」
 少しでもいつも通りに。そう思って御幸はさらに軽口を重ねる。
馬鹿、と帰ってきたシンプルな罵倒さえ嬉しく感じた。


ダイヤオンリーの御川はこんなお話の本出すつもりです。

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