シークレットマリアージュ

「白州はさ、いいお父さんになりそうだよな」
夜になると白州の部屋に川上がやってくる。
必ず音楽プレーヤーを携えて。時々は音楽雑誌も。
そして飲み物を飲みながら音楽を聴き、のんびりと過ごすのがほぼ毎日恒例になっている。
今日もそのいつも通りの過ごし方。
何気ない雑談が川上から始まった。
「なんだ急に」
「白州と居ると居心地良いからさ、娘が年頃になっても嫌われない気がした」
川上が言うには、父親を嫌う女子の話を聞いてふと思ったのだそうだ。
「その理論で行くと、俺は女子にとって嫌じゃない父親の扱いで恋愛は絶望的だな」
だがそれは一般的には褒め言葉にはならない。
高校生が将来的に他人と家族になるには前段階として恋愛がある。
お見合いから入る大人ならばまだしも、高校生同士で最初から父親の立ち位置では恋愛には発展しないのだ。
「そ、そういう意味じゃないって!」
「わかってる」
川上に悪意がないのを白州は十分わかっている。
常々白州と共にいると居心地がいいと思っているのだろう。
そしてそれが学校で耳にした女子の話と結びついてのいいお父さんになりそう、という言葉だ。
混ぜ返したのは面と向かって居心地がいいと言われて少し照れたからで怒っても気を悪くしてもいない。
むしろ嬉しいぐらいだ。
「ならいいや」
もちろん川上も白州が悪気のある言葉ではないと理解している事をわかっている。
川上が何気なく言った事に時々突っ込みが入るのはいつもの事だ。
意図が伝わっている確認のように互いに頷き合ってしばしの沈黙の後、白州が口を開く。
「ノリはいいお兄さんだな」
「そうか?」
川上にしてみれば兄というと、もっと頼れる存在のような気がする。
どちらかというと良い父になりそうな白州の方が兄らしいのではないかと思う。
だが続く白州の言葉で完全に納得した。
「沢村と降谷の面倒を見てる所は完全にお兄さんだ」
川上が兄らしいのではなくて一年生二人が弟らしいのだ。
手がかかって、だが川上の事を慕ってくれて。
だからつい世話を焼いてしまう。
「先輩じゃないのかー」
「ああ。先輩よりももっと近い気がする」
「部屋違っても同じ寮だし、家族っぽくなってきてるのかな」
落胆はない。
先輩として敬われるよりも、家族のように近く慕ってもらえる方が川上の性に合う。
白州の言葉に嬉しげにうんうんと頷く。
「あいつらたまにここに遊びに来るだろう」
ちょうど話題に出た事で、思い出したように白州が言う。
「来るなー。最近はお菓子手土産にする事を覚えたな」
「ああ、気を利かせるくらいに成長したんだな」
最初は本当にただ遊びに来るだけだったが、いつの間にか何も言っていないのに手土産を持参するようになった。
気を遣うなというと手土産の頻度を下げた。
野球の成長も喜ばしいが、気遣いが出来るようになっていくのもとても嬉しい。
「なんか俺達、孫の成長喜ぶお爺ちゃんみたいだぞ」
思わず笑顔になっていた自分に気付き川上が白州を見ると、白州もとても柔らかく笑っていたからからかってみる。
「そうだな。お年寄りになったら茶飲み友達になろう」
だが白州はそれを良い事と受け止めるのでからかいにもならないのだ。
「うん。ずっと仲良くしてくれよ」
そして川上もその呼吸が理解できるから、二人の空気は乱れない。
穏やかに流れる。
「もちろんだ。ああでも、たまには旦那にしてくれ」
時折、乱れそうになる事はあるが。
「旦那?」
「俺がいいお父さんなら、ノリはいいお母さんになってくれ」
ただの友達よりは踏み込んだ事を時折白州が言うからだ。
「俺子供産めないぞ!」
さすがにこれには川上も抗弁する。
しかし拒否ではない辺りに、互いに互いをなんとなく受け入れている関係性が見て取れる。
「技術の発展次第でなんとかなる可能性に期待しよう」
「そもそも結婚が!」
「性転換関係が結構緩くなってきている。うまくすればいけるぞ」
「そんなもんか?」
関係の世間的な定義を気にするのは前向きに考えている証拠ととった白州が畳み掛けると川上はあっさりと矛を収める。
「ああ。それにいざとなったら認められている国まで出よう」
「そうだな。それならいいかな」
プロポーズまがいの白州の誘いにも応じてにっこりと笑った。
「白州とずっと一緒ってのはいいもんな」
「……ノリは少し、考えてから話すといい」
二人の間の何でも許される空気のせいか、時折想定外の殺し文句が飛び出す。
自分でも同じような事を言う自覚もあるからあまり強くも言えず、白州は頬を染めつつ苦言を呈するに留まった。



白川はときどき甘い日常系ほのぼのカップル。



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