甲子園へ出発する数日前の早朝。
鳴は桜沢高校のグラウンドにこっそりと忍び込む。
校舎ではない事と公立高校の予算のかけ方ゆえかセキュリティらしきものもなく、誰にも見とがめられる事はなかった。
そして見つける。
予選の準決勝で負かした相手校の投手、長緒アキラの走る姿を。
「いた」
小さくつぶやくと鳴はアキラに駆け寄り並走を始める。
「え?」
足音に首だけで振り向いたアキラが驚きの声を上げる。
「気にしないで走ってよ」
俺は気にしないから。と足を止めかけたアキラに声をかけて鳴はランニングを続けさせる。
「何しに来たんだ?」
逆らっても無駄だと察したアキラは、走りながら疑問を投げかける。
「ちょっと聞きたい事あって」
「聞きたい事?」
悪印象を抱けないほど当たり前に尊大な稲実のエースが自分に何を聞くというのだろう。
そもそも誰かに教えを請うタイプには全く見えない。
重なる疑問に眉を寄せるアキラに、鳴は問う。
「野球やめないよね!」
それは聞くというより一つの答えしか許さない命令に思えた。
「予選終わってもこうやって朝走ってるしさ。やめないよね!」
「やめられるわけないって、わかるだろ」
公式の試合がなくても走ってしまうのだから。
圧倒的な実力差を見せつけられてもなお、朝になるとグラウンドに来てしまうのだから。
アキラが皮肉っぽく答えると、鳴は満足そうに頷いて笑う。
「うん! じゃあ朗報。もっと頑張ったら、俺が作る最強チームに誘ってあげるから」
「は?」
「俺について来られたら、一番高いとこまで連れてってあげるよ!」
野球どころか会話で早くもついていけないアキラに言いたいだけ言うと鳴はスピードを上げて去っていく。
自分でも最強だと思う今のチームに食いついてきた桜沢高校。
そのチームを支える投手が野球をやめてしまうのはもったいないと思ったから。
桜沢はどちらかというと進学校だと聞いて、たまらず会いに来てしまった。
でも大丈夫だとわかったからもういい。
帰ったら叱られるであろう事はわかっていても、足取り軽く鳴は走る。
「待て! おい待てよ!」
その気持ちを切らす声。
「俺の連絡先知らないでどうやって誘うんだ!」
アキラが追いかけてきて、先ほどとは逆に彼が並走する。
「活躍して有名になってれば誘えるじゃん」
せっかく格好よく去ったのにと口をとがらせて鳴が答えるとアキラは盛大に呆れた顔をした。
「有名になったら直接なんてコンタクトとれるわけないだろ! 甘すぎ!」
手近な紙に走り書きした連絡先を押しつけるアキラ。
これは誘いには乗る気があるという事で、それならうるさく言われてもいいかと鳴は機嫌を直す。
「そうだ、一緒に稲実まで走ろう!」
「なんでだよ」
「いいじゃん。俺と一緒にトレーニングできるなんてレアだよ」
アキラの返答を待たず引っ張って走る鳴。
当然だが帰ってから盛大に叱られた。




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