「沢村」
ある日の夜。
自主練を切り上げて消灯までの時間の過ごし方を考えながら部屋へ戻ろうとした沢村を御幸が呼びとめた。
「ん?」
「少しだけキャッチボールしようぜ」
不思議そうな顔で振り返った沢村に手に持ったボールを示して御幸はそう誘う。
「あー、遊び遊び。たまに深く考えないでボール投げるのもいいぞ」
「そういう事なら。どこでやるんだ?」
沢村の表情が不思議そうから真剣に考え込む方向にシフトしたので特に何かがあるわけではない事を口にする。
とりあえずは納得してくれたようで、こっちだと御幸が示すとおとなしくついてきた。
「この辺でいいか。遊びなんだから適当に投げろよ?」
そう言いながら沢村と距離を取り、ボールを投げる。
「このくらいか?」
返事とともに沢村から返ってくるボール。
「おう。そんなもんで」
先ほどの御幸の言葉通り、二人は本当にただのキャッチボールを始める。 掛け声とともにただ投げて捕って。
心地よい繰り返しがしばらく続いた後、唐突に御幸がその流れを変える。
「なあ沢村?」
「ん?」
会話が始まる。
「今投げてるボール、実は俺の大事なもんなんだぜ」
「何!? そんなもんキャッチボールに使うな!」
投げ返そうとした沢村の動作が止まって慌てて駆け寄ってくる。
「ええと、汚れたか? 拭いた方がいいか?」
ボールと御幸を交互に見て心配そうにそう尋ねてくる。
「いや、何もしなくていい。お前とのキャッチボールに使うためのボールだから」
「わざわざそのために買ったのか?」
全く意図がわからない様子の沢村に、御幸は静かな声で種明かしを始める。
「それな、お前が俺と初めて会った時に使ったボール」
沢村との初めてのバッテリー。
その時に面白い投手だと思い、なんとなくで取っておいた記念。
「あの時の?」
「そう。それが掃除してる時に出てきたから懐かしくなってな。付き合ってもらったってわけ」
これがあれば沢村とはいつでも初心に帰れる。
そんな気がして、沢村を誘った。
「俺らの記念か……」
手の中のボールを見つめる沢村のまなざしに、それはきっと間違いではないと感じる。
「じゃあまたこれでキャッチボールやろうな!」
御幸の思いを裏付けるように沢村は笑顔で次の約束をしてきた。


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