Deep impact

ある日、予備校から帰り復習をしていたフクは、ふと合格を目指している「大学」がどんな場所なのか知らない事に気づいた。
「見に行こうかな?」
どこでもいい。とにかく「大学」を。
そう思い立ったがどこに行ったら良いのかわからない。
しばし悩んだが何か思いついたらしくぱっと顔を上げるフク。
その視線の先にはウメの部屋のドアがあった。
ウメは少なくともフクよりはこの街を知っている。
それならばウメに尋ねれば良いアドバイスをくれるだろう。フクはそう思いついたのだ。
「団長?」
ノックをして遠慮がちに声をかける。
「どうぞ」
いつもと変わらない声が返ってきた。
「起こしちゃいましたか?」
声からは眠そうな様子は感じられなかったが、仕事柄昼間は苦手だろうと思いそう尋ねる。
「大丈夫。それより、どうしたの?」
「大学を見に行きたいんですけど、どうしたらいいのかわからなくて相談に来たんです」
そう言ってフクは大学という場所を知りたいのだという思い付きを説明する。
「オープンキャンパスじゃなくてもいいなら、近くの学校にもぐり込んだらいいんじゃないかな」
「え、そんな事できるんですか?」
「うん。不安なら一緒に行こうか」
「いいんですか? お願いします!」
同行の申し出にぱっと顔を輝かせるフク。
一緒に出かけられるという思いで申し出たウメはその様子に少し目を細めて微笑んだ。
「じゃあ早速行こうか」
「はい!でもこのカッコ、まずいですね」
学ランはさすがに目立ちそうで気になるらしく、フクはボタンを外し始める。
そしてするりと袖を抜くとランニングシャツ一枚になり、露になる肌。
その光景にウメは思わず目を瞠る。
自分の部屋でフクが脱ぐ。その状況に思わず妄想が頭の中を駆け巡る。
「その格好も、まずいかな」
思わずフクに手を伸ばしそうになるのを抑えながら言う。
自分の理性が崩壊する危険があるという思いと、自分以外の誰かに見せたくないという思いを込めて。
「そうですか……じゃあどうしよう」
「買いに行こうか」
ウメは困った顔をしたフクにそう提案する。
「あ、そうですね。でも……」
フクは少し言いよどんで、それから口を開く。
「団長、もう一つお願いいいですか?」
「いいよ」
ウメは「お願い」の内容も聞かず即答した。
フクからのものならば、内容などたいした事ではない。
願いを叶えた時、嬉しそうにするフクが見られるだけでよかった。
「ありがとうございます! じゃあ、服選んでください!」
衝撃が、走った。
自分のセンスに自信がないから、というフクの言葉が遠くに聞こえる。
凄まじい思考の奔流がウメの現実感を希薄にしていく。
それは一般的に、妄想と呼ばれる部類のものだった。
メイド、猫耳、ナース、巫女、バニーガール、エトセトラ、エトセトラ。
様々な格好をしたフクの姿をウメは頭の中に思い描く。
普通に可愛らしいものより、きわどいものの方が多いのは、先程学ランを脱ぐフクを見たからだろうか。
「団長?」
「ん、あー……何?」
フクに呼ばれて我に返る。
「急に黙っちゃったから、どうしたのかと思って」
「ああ、少しぼーっとしてたみたいだね」
立ったまま寝てたんですか、とフクが笑う。
その笑顔に少し幸せな気持ちになりながらも、ウメは脳の片隅で妄想をやめない。
微笑むフクのコスプレバージョンを次々と作り出していた。
この状況で服選びなどしたら、とんでもないものを選ぶ気がする。
ウメを現実に立ち返らせた理性がそう警告していた。
「フク、学ランでもいいんじゃないかな。俺もセンスに自信あるわけじゃないし」
伊達に長く想い続けていたわけではない。
今まで会わずにいる事にさえ耐え切った理性が勝った。
「でも目立ちませんか?」
「応援団のある学校なら不自然じゃないよ」
「大学にも応援団ってあるんですか?」
「ある所にはね。興味ある?」
応援団の有無が大学選択の要因の一つになるのであれば、近くの大学に無理やりにでも作ってやろう、などと無茶な事を考えながらも優しく尋ねる。
「うーん、ちょっとはありますけど……」
首をかしげてからフクが続けた言葉に、ウメに本日二回目の衝撃が走った。
「団長は、団長だけですから」
「フク……」
暖かい歓喜が心に広がる。
照れくさそうに言うフクを抱きしめずにいられたのは奇跡だった。
「ありがとう」
抱きしめる代わりに想いを込めて柔らかく微笑む。
本当の想いが伝わらなくても、フクの言葉によって得られた喜びへの感謝は伝えておきたかった。




ギャグになるはずだったんですが、なんだこれ?
なんだか意味不明に。
タイトルは別に某三冠馬が好きだからじゃないですよ。

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